ここ数年で絶滅したかと思われていた、試合に負けて戻ってきた子供を殴る親を、久しぶりに間近で目撃しました。

ちょうどウチの選手の2試合前だったので、なんとはなしにその試合をずっと見ていたのですが、両者とも素晴らしい選手で、拮抗した内容のほんといい試合でした。

負けた子供が戻ってきた直後、父親とおぼしき男性が
『なんじゃいまのは!!!』
とバッチーンとビンタ。
そして髪の毛を掴んで体育館の端っこに引きずっていきました。


いやー。実に寒かった。


隣にいたウチの選手のお父さん
『先生、あーゆーのは普通にあることなんですか?』

『いえいえ。10年くらい前までは結構いましたけど、ここ最近はほとんど見なくなりましたねー。僕も久しぶりに見ました』

『ああ、そうなんですね。いやーびっくりしましたよー』


そこそこの家族の関係性の中のことなので、他人がどうこう指図するなと言われるかもしれませんが、客観的に気分が悪くなる光景です。


で、なぜ気分が悪くなるのか考えてみました。


おおむね、子供に暴力を振るう親は、本人の力の及ぶ範囲以上の結果を求めていないだろうか。
9.0秒でしか走れない子供に、今すぐ7.2秒で走れと命令しても、できないものはできない。


そもそも子供が試合に負けたことは罪なのでしょうか?

『ごめんなさい。次は勝ちます』
という約束をもし子供に取り付けたとしても、子供はその約束を次回、忠実に履行できるでしょうか?

これは子供の意志でどうにかなる範囲外の、明らかに無理な要求ではないでしょうか?


まず怒るべき場合かどうかは、それが罪なのか、そうでないかを判断しなければならないし、次に、ちょっと適切な言葉ではないかもしれませんが、
『意識領域』
『無意識領域』
のどちらなのか分けて考えなければならないと思います。

例えば、子供が肘をついてご飯を食べている時、これは怒らなければなりません。
日本において食事中に肘をつくのは、はしたない行為とされていますから罪。
そして、これは意識すれば今すぐ直せることだから注意すべき。


試合で怒ってもいい場合とは『意識領域』、つまり意識を変えればある程度、結果が変わったであろうと考えられる時のみです。

・右にステップしろ、と指示をしたのに左にばかり移動した
・ローが効いてる、と言ってるのにミドルやハイばかり出した
・技有りを取って(もらって)残り時間を無気力に過ごした

こんなもんじゃないか。ほかにそんなに思いつきません。
だからと言って、過剰にプレッシャーのかかる試合中は冷静な判断力が下がるので、どれも殴るほどの罪ではない。
わたくしが試合後に選手を怒ったことって、20年間で2〜3回くらいなもんです。

要するに試合の中で意識して変えられる部分なんてあんまりない。
だから実際怒る場面なんてほとんどない。

むしろ意識で変えられる領域とは、ほとんど平素の練習中にあるものです。



試合というのは、相手がいて結果があります。その相手は必ずしも均一ではなく、対戦してみなければわかりません。
例えば、陸上とか、ウエイトリフティングとか、いちおう対戦相手がいるんだけれども、本質的に自分の過去の最高のパフォーマンスを、本番で忠実に再現することが求められる競技がある一方で、格闘技はどんな相手と対戦するかが勝敗に大きく寄与する競技です。
必ずしも練習した通りにはいかない。
空手で負ける、ということは、その時は相手が強かった、いうことです。


『自分ではどうにもならないことを
どうにかしようとすればするほど
自分でどうにかなることまで
どうにもならなくなる』


どんなに練習しても
対戦相手がどれくらい強いかによる。
対戦相手との相性もある。

トーナメントの運もある。
ジャッジの主観もある。

そんなことを嘆いてもどうにもならない。

自分でなんとかなることは、自分の仕上がり具合だけだ。
だから、限られた条件の中で、自分でできることは何か考えよう。


今回の試合では、相手の方が上回っていた。
また同じ相手と再びまみえることがあるならと考えて、次は負けないようにと対策をしよう。

それが修業です。


わたくしが嫌悪感を覚える代表的なものは、相手に押されて後ろに下がったことを責めること。
だって、あなたの子供は自発的に下がったわけじゃない。そこには相手がいて、その相手は、あなたの子供を後ろに下げてやろうと思って前に出てきたのですよ。
両者とも同じことを思ってぶつかり合い、結果、片方が自分の意に反して下がらざるを得なかった。

で、下がったことをなぜ批判するの?

セコンドが
『下がるな!!』
と言ったら下がらなくなるの?

選手が
『あぁそうだ。下がっちゃダメだ』
と思い直せば、下がらなくなるの?


そこに相手がいることを忘れてませんか?
現時点で、相手の方が接近戦に強いんですよ。


それはステップや手数も同じ。
道場では華麗にステップして相手のサイドポジションを取る選手が、相手にやられるがまま真っ直ぐ後ろに下がった。
サンドバッグで手数を出せる選手が、なぜか試合で手数を出さなかった。

おそらく、相手の攻撃が思いのほか痛いとか、やたらカウンターが上手いとか、圧がすごくて前屈できなかったとか、きっとなにか選手にしかわからない特殊な事情があるんです。
だからやってる選手は誰だって勝ちたいけれど、ディフェンスに回らなければならなかった。


それなのに、試合が終わった瞬間、親に
『なんで手数ださんかったとかて!!』
とか言って殴られる。

特に低学年の子供なんて語彙が乏しいから理由なんて説明できない。
もちろん親も、手数を出せなかった本当の理由なんて別に興味がないから、もし子供が
『相手の身長が高く、肩口に来る上からのパンチを避けにくくて思うように手数を出せなかった』
などと、子供が本当に事情を説明しようものなら、
『理由がわかってるならやらんかい!!』
と言って、たぶんもっと怒る。

この怒り方は、ひとつも指導じゃない。
これは、ただの親の感情失禁(ションベンを漏らすのと一緒で、怒りの感情をこらえきれずにお漏らしする)。
子供が負けて悔しくて、自分の感情を抑えきれずに八つ当たりしているだけです。



さんざん親が
『次は絶対に下がるなよ!!』
と怒鳴って殴って、直後にまた同じ相手と再試合するとします。

でも、絶対に後ろに下がるなよ、と言われても、意識ではどうにもならない領域のことだから何も変化は起きない。
それどころか、子供は怒られた分だけ自信を無くして、さっきよりももっと悪い試合をするはず。

いくら周りがやんや怒っても結果は変わるわけがないのですから、それは日ハムの日本一を受けて広島の街で大暴れしている酔っ払いと同じレベルです。



だから周りで見ている我々も気分が悪い。

いいかげん、カラテ界から絶滅せんかなこの人種。






さて。昨日行われた不退転杯
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古賀逸希 優勝!
本田ののか 準優勝!
宮崎真紗斗 敢闘賞!
おめでとうございます!
春稀も勝てなかったけど素晴らしい動きでしたよ。
みんなよく頑張りました。

また、南里家、辻家、せっかくの貴重な休日に遠路応援に駆けつけてくださりありがとうございました。

試合とは『試し合い』。
試し合った結果、表面化した課題を、また今日からひとつひとつ克服していきましょう。それが修業です。